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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)281号 判決

広島県三原市糸崎町5452番地の8

原告

合名会社黒瀬商店

同代表者代表社員

黒瀬一敏

同訴訟代理人弁理士

澤木誠一

澤木紀一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

清川佑二

同指定代理人

遠藤行久

青木良雄

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成5年審判第10720号事件について平成6年9月30日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「シェルター用パネル」とする別紙第一記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について、昭和62年8月20日、意匠登録出願(昭和62年意匠登録願第33559号)をしたところ、平成5年3月15日、拒絶査定を受けたため、平成5年5月25日、審判を請求した。特許庁は、上記請求を同年審判第10720号事件として審理した結果、平成6年9月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をし、その謄本は、同年11月16日、原告に対し送達された。

2  審決の理由の要点

(1)ア  本願意匠に係る物品及び形態は前項記載のとおりである。

イ  これに対し、昭和53年6月7日発行の意匠登録第476845号公報(意匠に係る物品の名称は「組立て上屋」、以下「引用公報」という。)においては、その屋根部を構成するいわゆる屋根用パネル(以下「屋根パネル」という。)について、形態を別紙第二に記載のとおりとする意匠(以下、この屋根パネルについての意匠を「引用意匠」という。)が記載されている。

(2)  そこで、本願意匠と引用意匠とを比較すると、

ア 両意匠は、屋外施設物の屋根を構成する屋根パネルであって、意匠に係る物品が一致する。

イ 形態については、両意匠とも、全体がパネル素子と、ストリンガーと称する母屋部材との組合わせにより形成され、その組合わせ方法は、いずれも、パネル素子の断面の基本形状を扁平な横倒略C形状とし、それを交互に向きを変えて順次噛み合わせ、山、谷の繰り返しとし、これを、パネルの長手辺と平行なストリンガーによって支持するというものであり、それによって、所定の面積の長方形状の波板状パネルが形成され、このパネルの各長手辺側を緩い弧状に曲げ下げたものである。以上は、意匠の基本的構成態様と認められるが、両意匠はその点において共通している。

また、両意匠の各部の具体的構成態様についても、パネル素子の断面の基本形状を、中央の平坦部と、両端において同一方向に曲げて向かい合う一対の弧状の立上がり部とを有する、扁平な横倒略C形状とした点が共通している。

ウ ー方、両意匠の相違点としては、各部の具体的構成態様のうち、〈1〉パネル素子の高さと横幅の比を、本願意匠は略1:8.3としたのに対し、引用意匠は略1:4.8とした点、〈2〉本願意匠が、パネル素子の中央平坦部に、パネル素子の長手方向と平行な広幅の低い凸条を一本形成したのに対し、引用意匠はそれを形成していない点、〈3〉パネル全体の縦と横の比を、本願意匠は略1:1.2としたのに対し、引用意匠は略1:2.2とした点、〈4〉ストリンガーの本数を、本願意匠は2本としたのに対し、引用意匠は5本とした点、〈5〉本願意匠がパネルの長手辺に端部キャップを設けていないのに対し、引用意匠はそれを設けている点において差異がある。

エ そこで、両意匠の上記の共通点と相違点を総合して考察すると、上記の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様における共通点は、両意匠の特徴としてその形態全体を律するものであり、意匠の類否判断を左右する要部をなすものと認められる。とりわけ、両意匠とも、パネル素子の断面の基本形状を扁平な横倒略C形状とし、それをストリンガーにより支持し、パネル素子の長手辺側の両方に緩い弧状の曲げ下げ部分を設けることにより波板状パネルを形成している点には、その特徴がよく表れており、それらの点は両意匠の類否を決する支配的要素をなすものである。

これに対し、上記相違点は、両意匠の類否判断を左右する要素としては微弱なものと認められる。すなわち、

〈1〉 パネル素子の高さと横幅の比の差異については、両意匠の断面における共通の態様(扁平な横倒略C形状)の中での比率の変更に過ぎず、特に評価すべき程の特徴のある相違とはいえない。

〈2〉 本願意匠のパネル素子の中央平坦部に凸条が一本形成されていることによる差異については、その凸条が、断面を単なる台形状とした、極めてありふれた形態のものであることに加え、高さもパネル素子を構成する素材の厚み程度の極めて低いものであり、凸条上面も幅広の平坦面による、極端に扁平なものとして形成されたものであるから、凸条としての形態の印象は薄く、これをパネル平面の形態全体からみると、ほとんど目立たない程度のものであって、その有無は格別看者の注意を引くものではない。

〈3〉 パネル全体の縦横の比の差異については、両意匠の比率のものは、いずれも従来から広く一般化しているものと認められるから、そこにさしたる創作はなく意匠上の格別の特徴を有するものではない。

〈4〉 ストリンガーの本数の差異については、建築物の屋根の下面に、ストリンガーと同種の目的を持つ母屋部材を適宜の間隔をあけて複数本設けることは、従来から極めて普通に行われていることであるから、ストリンガーの数の差がもたらす強度上の差異の点はともかくとして、形態上においては特に評価するほどの特徴のある差異とはいえない。

〈5〉 パネル長手辺の端部キャップに関する差異については、引用意匠に設けた端部キャップの形状が、この種の物品の属する建築の分野にあっては極めて一般的なチャンネル形であって、特に特徴のある形態とはいえず、しかも、パネルの長手辺に沿って極めて細く、線状に表した程度のものであるから、その部分に限って注目した場合にはともかく、形態全体としてみると、限られた部位における極めて僅かな差異に止まり、その差異が意匠の類否の判断に与える影響は微弱なものというほかはない。

〈6〉 そして、これらの差異点を総合しても、両意匠を別異なものとするほどの差異とはいえず、前記のような基本的構成態様及び各部の具体的構成態様における共通点を凌駕するものとはいえない。

オ 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠とは意匠に係る物品が一致し、形態においても、その特徴として形態全体を律する意匠の要部が共通するものであるから、両意匠は類似するものというほかはない。

(3)  したがって、本願意匠は、意匠法3条1項3号の意匠に該当し、意匠登録を受けることはできない。

3  審決を取り消すべき事由

「審決の理由の要点」のうち、(1)イについては否認し、(2)ア、エ〈2〉〈6〉、オ、(3)については争い、その余は認める。

審決には、その審判手続(以下「本件審判手続」という。)において、原告に意見を述べる機会を与えなかったという瑕疵があり、また、審決は、本願意匠に係る物品と引用意匠に係る物品とが異なるにも拘らず、誤って一致するものと判断し、更に、審決は、本願意匠が、パネル素子面に形成された凸条により、看者に対し引用意匠とは異なる美感を与えるものであることを看過して、両意匠が類似すると誤って判断したものであって、いずれも違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本件審判手続の瑕疵について

審決においては、引用意匠として、引用公報に記載の意匠のうち屋根パネル部分を引用しているが、本件出願の審査段階における拒絶理由通知及び拒絶査定において示された意匠は、引用公報に記載された意匠そのものであった。そのため、審決における引用意匠と原査定で引用された意匠との間には同一性がなく、審決は、原査定で引用された意匠とは異なる意匠に基づいてなされたものというべきであるが、本件審判手続においては、原告に対し、その点についての意見を述べる機会を与えなかった。

したがって、審決には、原告に対し示していない拒絶理由によって、それに対する意見を述べる機会を与えないままなされたという手続上の瑕疵があるから、違法として取り消されるべきである。

(2)  意匠に係る物品の不一致について

審決は、両意匠に係る物品が一致するとしているが、本願意匠に係る物品は、上屋として使用できる「シェルター用パネル」であり、平面図において左右に連続するものであるのに対し、引用意匠に係る物品は、脚柱付きの「組立て上屋」である。また、引用意匠の屋根用パネルは、平面図の横幅が脚柱の高さの約2倍のものであるが、本願意匠では横幅に寸法的な制限はない。

したがって、両意匠に係る物品は互いに異なるから、これを一致するとした審決は誤りであり、取り消されるべきである。

(3)  本願意匠のパネル素子面に形成された凸条による美感の差異について

審決は、本願意匠における凸条はほとんど目立たない程度のものであり、その有無は看者の格別の注意を引くものではないと認定判断している。

しかしながら、本願意匠及び引用意匠におけるパネル素子はいずれもストリンガーに組み合わされ、その状態で屋根等の板状体を形成するものであるから、両意匠の美感はパネル面についての平面的なものが主となる。したがって、パネル素子の面に凸条があるかないかは、意匠を識別するための大きな拠り所となる。

更に、この種シェルターパネルにおいての最大の弱点は、パネル素子の幅がある程度大きくなれば、風が強く吹いたとき、特に山パネル素子が変形し、ストリンガーの溝から剥がれてしまうことである。本願意匠のパネル素子における平坦部の凸条は、単に美感のみならず、これによってパネル素子の変形を阻止し、剥がれるのを防止する役割をも有し、これは一種の機能美もいえるものである。

需要者においては、パネル素子のこのような機能をも十分考慮の上購入を決めることは自然であり、この凸条部分も意匠の要部であると認められる。

以上のとおりであるから、上記凸条部分を有する本願意匠は、これを有しない引用意匠とその美感を異にするものというべきであり、この点を否定した審決には判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の事実は認める。

2  同3(審決を取り消すべき事由)は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  本件審判手続の瑕疵について

本件出願に対する拒絶査定の理由として引用された意匠は、平成元年1月17日付け拒絶理由通知書中の「記」の欄に、以下のとおり3行に分かれて記載されることによって示されている。

1行目 「特許庁発行の意匠公報記載」

2行目 「意匠登録第476845号」

3行目 「(意匠に係る物品、組立て上屋の屋根パネル)の意匠」

この記載内容を、表記の形式の点を考慮に入れて素直に読むと、拒絶査定において引用した意匠は、「特許庁発行の意匠公報に記載された、意匠登録第476845号の意匠における、組立て上屋のうちの屋根パネルの意匠」と解釈することができ、そう解釈するのに別段の不都合な点はない。そうであれば、上記2行目に示した登録番号の意匠は、意匠に係る物品を「組立て上屋」とし、この「組立て上屋」の形態は、屋根パネル部と支柱部とによって構成されているものであることが明らかであるから、上記3行目で引用の意匠に係る物品として示した「組立て上屋の屋根パネル」とは、審決における「屋根パネル」部分、すなわち、支柱を除いた上方の部分であると容易に想到できるものである。

したがって、引用意匠は、当初から上記拒絶理由通知書に明確に記載されていたものというべきであるから、その点において原告の主張は失当である。

(2)  意匠に係る物品の不一致について

引用意匠に係る物品は、(1)のとおり、組立て上屋の支柱を除いた屋根パネル部分と解釈すべきものであるから、原告の、引用意匠に係る物品が脚柱付きの組立て上屋であるとの主張は、引用意匠に係る物品の解釈を誤ったものであり、失当である。

また、パネル横幅の寸法的制限の差異については、それが、施工時ごとに寸法を決定する作業を必要とするか否かという意味においては差異があるとはいえても、どの様な場所に、どのような目的で用いられるものかという、意匠に係る物品の用途という点では変更をもたらすものではないから、該差異をもって物品が異なるとする理由はない。

してみると、本願意匠は、願書の記載によれば、「通路、自転車置場、バス停、カーポート等の上屋として使用することが出来るようにした組立パネル」であり、他方、引用意匠は、前記のとおり「組立て上屋」の「屋根パネル」部分と解釈すべきものであり、この「組立て上屋」とは、引用公報の記載によれば、「屋根付きのカーポート、バス停や砂場の上屋等として使用する」ものであるから、両意匠を、屋外施設物の屋根を構成する屋根パネルと認定し、意匠に係る物品が実質的に一致すると判断した審決に誤りはない。

(3)  本願意匠のパネル素子面に形成された凸条による美感の差異について

この点についての原告の主張は、意匠に係る物品のパネル素子の単体そのものを、部品の状態で直接比較した場合においてのみ妥当性を持つといえるものであって、このパネル素子を多数反復連接して一枚のパネル状とした両意匠の全体の形態を比較する場合には、その凸条の有無についての差異は、審決に記載のとおり、格別看者の注意を引くものではない。

更に、この差異が、審決が両意匠において一致するとした基本的構成態様、すなわち「断面の基本形状を扁平な横倒略C形状とするパネル素子が交互に向きを変えて順次噛み合わされ、山・谷の繰り返しとなり」(審決3頁2行目ないし5行目)という両意匠に共通の強いうねりの構成態様の中でみられる差異である点を考え合わせると、その差異はいっそう希釈化され、もはや、凸条の機能的役割に看者の注意が及ぶこともほとんどなく、到底、両意匠を別異とするほどの大きな差異をなすものではない。

したがって、本願意匠の凸条は、もともと凸条としての形態の印象すら薄いほどの極めて低い偏平なものであるから、これを形態全体としてみるとほとんど目立たないものであるとし、その有無の差異を「看者の注意を惹くものではない」とした審決の認定、判断には誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、両意匠の基本的構成態様が審決認定のとおりであり、更に、その具体的構成態様のうち、パネル素子の断面の基本的形状についても審決認定のとおりであって、それらの点で両意匠が一致すること、両意匠のその余の具体的構成態様については、審決において認定するとおりの各相違点が存在すること、それらの相違点のうち、本願意匠におけるパネル素子の中央平坦部に凸条が形成されている点を除いた各差異の、意匠の類否に及ぼす影響に関しては、審決における認定判断のとおりであることについても当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

(1)  本件審判手続の瑕疵について

原告は、本件出願の審査段階における拒絶理由通知及び拒絶査定において示された意匠は引用公報に記載の意匠(組立て上屋)そのものであったところ、審決において示された意匠は引用公報中の屋根パネル部分(引用意匠)であって、拒絶査定において引用された上記意匠とは同一性を欠くものであったから、審決にあたっては、原告に対し、引用意匠について改めて意見を述べる機会が与えられるべきであったにも拘らず、与えられなかったとして、審決にあたっての本件審判手続に瑕疵がある旨を主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第4、第5号証によると、上記手続について次の事実が認められる。

ア  特許庁は、原告に対し、平成元年1月17日付けをもって本件出願についての拒絶理由を通知したが、そこにおいては、本件出願を拒絶すべき理由として以下のとおり記載されていた。

「この意匠登録出願の意匠は、下記に示すように、その出願前に国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する。

特許庁発行の意匠公報記載

意匠登録第476845号

(意匠に係る物品、組立て上屋の屋根パネル)の意匠」

イ  特許庁は、その後である平成5年3月15日付けをもって、本件出願に対し、同様の理由による拒絶査定を行ったが、そこにおいては、上記拒絶理由通知において引用した意匠を引用している。

以上の事実からみるならば、拒絶理由通知において引用された意匠が、引用公報に記載された「組立て上屋」のうちの「屋根パネル」部分の意匠であることは、その記載内容からみて疑問の余地がなく、拒絶査定においても同様の意匠部分(引用意匠)を引用していることは明白である。

そうであれば、審決において引用された意匠と、拒絶理由ないし拒絶査定において引用された意匠とが同一のものであることは明らかであるから、審判官が、審決をなすにあたって、改めて、原告に対し、引用意匠について意見を述べる機会を与えなかったとしても、その点に手続上の瑕疵はない。

したがって、原告の上記主張は失当というべきである。

(2)  意匠に係る物品の不一致について

原告は、本願意匠と引用意匠とにおいて意匠に係る物品が互いに異なる旨を主張するが、審決において引用された意匠が引用公報中の屋根パネル部分(引用意匠)であることは、原告が上記(1)における主張中で自認するところであり、成立に争いのない甲第1号証(審決)の記載からも明らかである。

そして、成立に争いのない甲第2号証、第3号証及び同第10号証によれば、両意匠に係る物品は、脚柱等と組み合わせることにより屋根付きのカーポート、バス停留所等として使用できるものである点で、その用途、機能を同一とするものであり、原告の主張する、使用に際してパネルを横方向に連続することが予定されているか否かによって生ずるパネル横幅の寸法的差異は、両意匠に係る物品の相違をもたらすものとはいえない。

そうであれば、本願意匠に係る物品と引用意匠に係る物品は、いずれも屋根用のパネルとして同一であることは明らかであり、原告の上記主張も失当である。

(3)  本願意匠のパネル素子面に形成された凸条による美感の差異について

ア  本願意匠と引用意匠とは、パネル素子とストリンガーとの組合わせにより波板状パネルを形成する等の基本的構成態様及びパネル素子の断面を扁平な横倒略C形状とする等の具体的構成態様の一部をいずれも共通にするものであり、かつ、それらが、意匠の類否判断にあたっての要部を構成するものであることについては当事者間に争いがない。

イ  これに対し、原告は、本願意匠におけるパネル素子面に形成された凸条も意匠の要部というべきであり、引用意匠はそれを欠くものであるから、両意匠は異なる美感を与えるものであると主張する。

そこで、本願意匠がパネル素子に審決(2)ウ〈2〉認定の凸条を有するのに対し、引用意匠がこれを有しない点が、原告の主張するとおり意匠の類否判断に影響を及ぼすものであるか否かについて検討するに、前出甲第2号証及び成立に争いのない乙第5ないし第10号証によると、一般に、パネル面上に低い台形状の凸条を形成することは、本出願時、意匠として新規なものではなく、むしろ目につくことの多いありふれた形態というべきものであること、また、本願意匠におけるパネル素子は長さ約3メートル、幅約18センチメートルのものであり、凸条は、その幅面中央部の約3分の1程度の部分を凸条の上辺として、長手方向に沿って細長く台形状に折り曲げて形成されたものであるが、凸条の高さはパネル素子の素材の厚さ程度の極めて低いものであるため、凸条はパネル素子の中央部に扁平に形成された条溝程度のものにすぎないことが認められる。

以上認定の事実に、本願意匠に係る物品は、屋外におけるバス停留所、カーポート等の上屋等として使用されることをその用途とすること前述のとおりであり、そのための物品として全体が観察されるものであることを考慮するならば、本願意匠における各パネル素子の凸条は、パネル全体の形態からみて、看者(看者については、取引者のほか一般需要者が該当するものと考えられる。)に対し、格別強い印象を与えるものとは認め難いものといわざるをえない。

そうすると、両意匠の要部は、審決認定のとおりの基本的構成態様と具体的構成態様のうちのパネル素子の断面の基本的形状にあり、パネル素子に上記凸条を有するか否かの相違点は、パネル素子により形成されたパネル全体としては、原告が主張する凸条の機能の点を考慮しても、その有無がもたらす美感の差異は僅かなものであり、これが両意匠の類否の判断に影響を与えるものではないというべきであるから、意匠の要部を構成するものと認めることができない。

ウ  更に、上記凸条部分と併せて、本願意匠と引用意匠の相違点(凸条の有無以外の両意匠の相違点については前記のとおり当事者間に争いがない。)等を全体として考慮したとしても、それらにおいて、前記のとおり両意匠に共通する基本的構成態様及び具体的構成態様が看者に対して与える美感を左右し、別個の美感を印象づけるものとは認められないことについては上記と同様である。

ェ 以上のとおりであるから、審決が両意匠をもって類似するとした判断には誤りはないものというべきである。

3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 シェルター用パネル

説明 左側面図は右側面図と同一のため省略する。背面図は正面図と同一のため省略する。

〈省略〉

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 組立て上屋の屋根パネル

説明 左側面図は右側成図と対称にあらわれる。

〈省略〉

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